あなたの数万倍匂う?犬の嗅覚について

犬の嗅覚は、人間の約1万倍から10万倍も敏感であると言われています。
これは犬の鼻腔に存在する嗅覚受容体の数が約3億個に達するのに対し、人間は約500万個であることからもわかります。
この驚異的な嗅覚は、古くから捜索救助、爆発物探知、麻薬探知など、多岐にわたる分野で利用されてきました。
今回は、昭和62年(1987年)の「臭気選別」に関する判例と、犬が癌検査に用いられる事例についてまとめます!

昭和62年犬の臭気選別に関する判例

昭和62年(1987年)の犬の臭気選別に関する判例は、日本の法制度において警察犬の嗅覚を利用した捜査手法が法的に評価された重要なケースです。
この事件は、犬が人間の体臭を嗅ぎ分け、容疑者を特定するために使われた捜査方法について、その証拠能力が裁判で争われました。

警察犬による本件臭気選別の結果は、右選別につき専門的な知識と経験を有する指導手が、臭気選別能力が優れ選別時においても右能力のよく保持されている警察犬を使用して実施したものであり、かつ、臭気の採取、保管の過程や選別の方法に不適切な点がないから、これを有罪認定の用に供することができる。

引用:最一小決昭和62・3・3

この判例は、ある刑事事件において、警察が証拠として押収した物品から容疑者の臭いを特定するために、警察犬を使った「臭気選別」という手法が使われたことに端を発しています。
臭気選別とは、特定の臭いを持つ物を犬が複数の物品の中から選び出す技術で、犬は訓練を通じてこの能力を高めます。

事件では、警察が現場から押収した物品に対し、容疑者の体臭が付着しているかどうかを警察犬が嗅ぎ分けました。
警察は、この嗅覚選別の結果をもとに、特定の人物が容疑者であるとしましたが、弁護側はこの方法の信頼性や科学的根拠に疑問を呈し、裁判でその証拠能力が争点となりました。

裁判では、警察犬の嗅覚を利用した捜査手法がどれほど信頼できるものであるかが詳細に審議されました。弁護側は、犬の嗅覚が誤認を引き起こす可能性があり、この捜査手法が科学的に裏付けられていないため、証拠としての採用に問題があると主張しました。

しかし、裁判所は最終的に、犬の嗅覚による証拠が単独で決定的なものであるとは限らないが、他の証拠と総合的に判断することで合理的な疑いを排除できると結論付けました。
この判決により、警察犬の嗅覚を利用した捜査手法が法的に認められることとなりました。

昭和62年のこの判例は、日本において警察犬の嗅覚を捜査に利用することが法的に承認された重要なターニングポイントとなりました。この判決以降、警察犬の嗅覚を活用した捜査手法は、一定の条件下で法的に有効なものとして認められるようになり、さまざまな刑事事件において利用されています。

また、この判例は警察犬の訓練と運用に対する信頼性を高める結果となり、その後の捜査手法の発展にも寄与しました。
現在では、警察犬の嗅覚は麻薬や爆発物の探知、失踪者の捜索など、犯罪捜査や災害救助の現場で広く活用されており、その証拠能力も確立されたものとされています。

犬の嗅覚を利用した癌検査

犬の嗅覚が犯罪捜査だけでなく、医学の分野でも役立つことが明らかになってきました。
その中でも特に注目されているのが、癌の早期発見における犬の役割です。
2000年代初頭から、犬が癌患者の息や体液の臭いを嗅ぎ分けることで、癌を特定できる可能性が研究され始めました。

研究によると、犬は人間の呼気や尿から癌の匂いを嗅ぎ分けることができます。
これは、癌細胞が通常の細胞とは異なる代謝物を生成し、それが体液や呼気に混ざって排出されるためです。
犬はこの微細な臭いの違いを敏感に察知することができるため、従来の検査方法よりも早期に癌を発見できる可能性があると考えられています。

癌探知犬の訓練は、特定の癌の臭いを学習させることから始まります。
犬は、癌患者の呼気サンプルや尿サンプルから特定の臭いを識別するよう訓練します。
この訓練は段階的に行われ、犬が確実に癌の臭いを嗅ぎ分けることができるようになるまで続けられます。
訓練の結果、犬は高い精度で癌を特定できるようになり、一部の研究では90%以上の正確性を示すこともあります。

実際に、膀胱癌、肺癌、乳癌などに関する研究で、訓練を受けた犬が高い精度で癌患者を特定できたという報告がされています。
特に、呼気を使った検査では、犬が非常に早期の癌をも検出できることを示しています。
これにより、非侵襲的で早期発見が可能な新しい診断方法として、犬の嗅覚が期待されています。

犬の嗅覚は、多くの分野で利用されています。
昭和62年の臭気選別に関する判例は、警察犬の嗅覚を捜査に利用することが法的に認められるきっかけとなり、その後もこの技術は発展してきました。
また、最近では癌検査においても、犬の嗅覚が新たな診断ツールとして注目されています。犬の嗅覚が持つ可能性は計り知れないですね。

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